羽月莉音の帝国 至道流星

壮大なスケール
目も眩むようなビッグステージ
なによりお金、国家、その先にある見た事もない世界

雷撃SSガール
羽月莉音の帝国
大日本サムライガール
雅の婚活戦争
好敵手オンリーワン

これはなんだ、と言われたら

と答える
これはそういう話だ
あれはそういう作家だ



…えっと、端折り過ぎた?

ストーリーを答えるなら、どれもみなほぼ同じ
ごくごく平凡な人間が壊滅的な誰かと壊滅的な出会いを経て、今まで何の縁もゆかりもなかった自分が浸っている「資本主義」「現代社会」という無形の化け物とがっぷり四つ組合い闘争を繰り広げる、という。

言葉にすればただそれだけの物語だ。

キャラ立ては陳腐。
セリフだってどこかで聞いたようなものばかり。
単行本だって単価は決して安くはない。
挿絵が魅力的かというと、悪くはないがそれだけで食指の動くものではない。

では、何が?
何がこうまで惹き付けるのか?

それこそ上記した言葉そのままだ。

つまり―――「カネ」

この資本主義社会において、人を最も駆り立て、人を最も狂わせるあの形のない化け物。

まさにそれをこそ真摯に―――あるいは諧謔に満ちた視点で、描いているからに他ならない。

我々はどこから来た?
我々はどこへ行く?
我々とは何者か?

そうした問いに一定の答を与えるもの。

普段我々は何によって生かされている?
それはいったいどのようにして?
この社会はどのように駆動している?
その行きつく先は?

そうした問いに答えて曰く。

世の中なんて、ほんとうに馬鹿馬鹿しいんだよ―――


これらの本の中では、社会を、いや、人を統べるのは地球人類70億人いる中で上層中の上層0,0000000000001%に満たないウルトラ・ハイ・ソサイアティだけであり、この種の人類だけであまねく富の半数以上を独占し、あらゆる政治経済機構に莫大な影響を誇っている。

ややもすればたんなる陰謀論、黒幕がいてそいつがすべて悪いとの、善悪二元論に落ち込む陳腐なストーリーだが、そうは問屋が卸さない。

銀河全てを覆うかのような圧倒的な砂上の楼閣を支えるのは、これ以上ないほどシンプルな骨子を膨大に集めた絶望的なほど圧倒的な具体である。

つまり金。
そして愚かな大衆。
つまるところ冗談としか思えないような現行の資本主義システムである。

作者は我々が何気なく、そして無意識に絶対だと思っている社会あるいは大人の作りだしたシステム、その誤謬をこれでもかこれでもかとばかりに例を挙げ法律を示し、金を、社会を、国家を、資本主義を暴き解体していく。

その様はいっそ清々しいほどで、かつまた同時に、我々はこのような危うい基盤の上に立っていたのかと愕然とする他ない。

そしてそのめくるめく疾走の中で際限なく増大してゆくスケール。


つーかぶっちゃけ部費1000円からどうして単行本にしてたった数巻で全世界を相手取って総資金額2000兆円なんてとこまで行っちゃうんだよ!
しかも高校生が4人や5人で。
もはやギャグである。

しかしその手法はまったくもって堅牢で、少なくとも私は全く(というのは流石に言い過ぎだが)違和感を感じなかった。スケールはともかくスピードもともかくとして、その手続きは至極真っ当なものである、と。

そう断言出来てしまうほど細部が確固たるパーツで出来ていた。






……もうね、なんちゅうかね。
高校生が数人寄り集まって金を借り会社を立て事業を興しヒットさせそこで留まらずスキームを構築し会社を拡大しM&Aを繰り返し極道の頂点と知り合い国境を超え中国やロシアとガチンコで取っ組み合い既にそのころには日本がハナクソに思えるほどで、銀行どころか証券市場を創造し0,00000000001%の世界の頂点にリーチをかけ独立帝国国家を建国し現在のマネーシステムを一新させる――――――なんて。

一体どこの既知外がここまで突き抜けられた。
まだ行くのか?どこまで?おいおいそろそろいいんじゃないか?―――なんて。
きっと毛ほども思わなかったに違いない。

ただただ天元突破。
しかもそのための道具立ては実に地に足付いていて、超常的なふしぎぱわーは一切ない。
一切ない。
1歳兄。
まちがえた。
一切ない。


手を合わせて拝むだけ。
たとえかりそめにでもこのような世界が―――しかも私のすぐ
隣に―――存在しているなんて。
そう教えてくれたあなたに。

「革命部の栄光のために」

読了。
再読多数。

羽月莉音の帝国 (ガガガ文庫)

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