エロゲ概論②

②題名:家族計画

ジャンル:現実ハードモード
制作会社:D.O.
脚本:田中ロミオ
制作年:2001年
2ch歴代ベスト:第2位
エロゲ批評空間(中央値/平均値):89/86
エロゲ批評空間ベスト:第4位

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相互扶助計画『家族計画』
よんどころのない事情により、疑似家族計画にのらざるを得ない俺たちに、果たして幸せは訪れるのだろうか――――(OP直前;本文より引用)

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これぞ、金字塔。
これぞ、極北の星。
誰もたどり着けない、誰もが仰ぎ見る、揺らがずそびえるエロゲが成し得たひとつの成果。
最愛のタイトル。

エロゲとはその始まりを、ドットで描いた可愛い女の子のCG集にみられる。80年代以前の話だ。経年的に絵のクオリティが上がっても、脱衣麻雀などアンダーグラウンドな世界での生存が僅かに認められただけであった。そこに一つの革命が訪れる。

1995年『世界の果てで愛をうたう少女YU-NO』(制作会社:elf)。

多人数ヒロイン攻略、感動的なシナリオ、選択肢によるルート変更、ゲーム性を持たせたトライアル・アンド・エラー、美麗なイラストおよびエロシーン、臨場感あふれるBGM…

たった1作でエロゲの基礎を積みきったとされる伝説…いや、神話級のタイトルだ。

ここからエロゲの咲き零れる花園のような発展期が訪れる。エロゲ黎明期。テンプレートが存在しないが故のあらゆる指向性をもった無秩序な成長発展。現在あらゆる作品の萌芽はほとんどこの時代に認められるといっても過言ではあるまい。激烈な生存競争を経てブラッシュ・アップされエロゲ進化の主流を勝ち取ったのは「癒しと感動」を掲げた制作会社「VISUAL-ARTS KEY」、そのスタッフであった。そしてそのベクトルは生き馬の目を抜く現代オタク戦士の心にスマッシュヒットした。可愛い女の子との触れ合い、育む愛、訪れる離別、奇跡による救済そしてハッピーエンド…

あざとい、と。チープだと言われかねないのは承知の上だ。だが確かにそこにはある種の結実があった。峻厳と咲く虚実の花、その美しさに魅了されたOTAKUが存在した。制作者・消費者・ハゲタカ…つまるところ「本気の大人」が有象無象魑魅魍魎五万と離合集散し作り上げた成果が、確かに花開いたのだ。

そして同業他社があの手この手で換骨奪胎した同じベクトルを持つ作品群…狂騒・狂乱の時代だった(この辺から僕はエロゲ界なる魔界大戦に本格参戦。●●歳の事であった)…

粗製乱造される数多のタイトル、無数のヒロイン。彼女たちは無目的に産生され消費されるだけの存在であったが、歴史的に意味を求めるとするならば、それは「淘汰」だ。

全ての物の99%はクズである。その標語が示す通り、いや、それ以上に大量の不燃性/不萌性ゴミを不法投棄して、砂漠の海
のひと砂より希少な一粒の金をこの世界は絞り出してきた。無方向性の混沌から突如発生した傑作・怪作が業界の次の5年を照らした。その繰り返しである。

ここら辺は紙幅の許す限り書き連ねたいのだが、余人にはそこまで興味をそそるものでもなかろう。端的に言うなら、『TO HEART』『WHITE ALBUM』『天使のいない12月』などに代表されるリーフ(※エロゲ制作会社の一つ。大御所)勢力だ。

その方向性はおおよそ2つに大別できる。つまり、複数ヒロインとの楽園・純愛、
あるいは前者のような砂糖菓子的世界観を持たない…行ってしまえば普段我々が生存を余儀なくされている、我々に厳しい、乾いた現実世界を基盤とした、 現実ハードモード・シリアスとの二つがそれだ。

前置きが長くなってしまったが、本作『家族計画』は後者の現実ハードモード世界観の流れを根底に湛える。脚本家の作家性もあり、ユーモアをたっぷり交え語られる世界は、しかしどうしようもなく“現実”だ。そこには奇跡による救済も、複数ヒロインからちやほやされる砂糖菓子の弾丸も存在しない。社会的マイノリティが直面せざるを得ない様々な現実的困難の前に彼らは何度となく打ちのめされる。弱者がそれでも生きていくために身を寄せ合い、彼らは偽装家族を演じる。それこそがタイトルを冠する“家族計画”の実情だ。今まで全く関わり合いになることなく生きていた他人同士の結束、その脆弱性がこれでもかと繰り返し描かれる。むしろ、そこが、そここそが本作の本質といっても過言ではない。生きていくため、生活の為、そう思って始めた偽造家族計画はやはり、終盤で必ず(どのルートを選んでも、必ず、だ)崩壊する。そこに活写される哀切に、我々はある種の諦観と納得を持って受け入れる。ああ、やはりこうなったのか―――、と。

前者では描かれ得ない、そんな都合のいいことおきるわけねーよwwwとハナッから受け付けない向きにはおすすめする。するにはするが…ぶっちゃけよう、それまで超御都合主義的アーカイブノベルであったエロゲを好み、魂の求める限り貪ってきたエロゲ人(えろげ・びと)達にとって、それはもう、ディスプレイをぶち破る程の衝撃だった。つまり

「なんでエロゲの中でまで辛い思いしなきゃいけねーんだ!」
それが全てである。

しかし、しかしだ。そのような世界観を採用したからこそ辿りつけた境地がある。そのような世界観でないと描けなかったものがある。そしてそれこそが―――本作が、短くはないエロゲ界史上で、燦然と輝くアラベスクたる所以である。

心して、心行くまで、堪能してほしい。
切に願う。

家 族 計 画(通常版) - PSP

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